通勤や通学、買い物に旅行。日々、電車に乗るたび私たちは、知らず知らずのうちにとても多くの広告に触れています。特に、車内に常時掲出されているポスター広告は、私たちの無意識の中に強く印象を残しています。毎日繰り返し見るという行為が、知らず知らずのうちにという無意識を通り越して「記憶」に働きかけているのです。今回は、電車内で代表的なポスター広告をいくつか取り上げ、その特徴に迫っていきましょう。また、近年話題にも上っているデジタルとアナログとの比較も交えながら、その違いについても考察してみましょう。
場所が違えば印象も変わる
1.ドア横ポスター
電車内で最も目につきやすい広告のひとつが、ドア横のポスター広告です。ドアのすぐ隣に掲出されているこの広告は、乗降時に必ず視界に入ります。また、立っている乗客の目線にも近く、電車の揺れで視線を動かしづらい状況でも、自然と目に留まります。スペースとしては縦長のものが一般的ではありますが、直近ではそのオーソドックスな形にとらわれることなくビジュアルやキャッチコピーをダイナミックに配置できるため、ブランドの世界観を直感的に伝えるのに適しています。
2.中吊り広告
これはポスター広告として電車内の天井から吊るされた形式で、車両の中心部分から両端に向かって複数枚並びます。中吊り広告は多くの場合、A3サイズやB3サイズで掲出され、インパクトのあるビジュアルと文章を組み合わせて情報を伝える形式が主流となっています。着席中の乗客や立っている乗客のどちらにも視認性が高く、ほんの少し視線を上げるだけで自然に読み進められる点が特徴です。出版系、エンタメ系の広告が多く、雑誌の見出しや映画の告知などがよく使われています。
3.窓上ポスター
最後に、車窓の上部、座席の正面あたりに位置する形で掲出されているのが窓上のポスター広告です。この広告は座っている乗客に対して視線の正面にあります。長時間座っているときにじっくりと見られる位置なので、詳細な情報やストーリー性のあるコンテンツとの相性が良好です。たとえば旅行商品の紹介や住宅、不動産広告など、検討に時間を要する商材に適している傾向があります。
常に“そこにある”という強み
近年では、車内のデジタルサイネージ(モニター広告)も普及してきており、電車内でも多く目にするようになってきたのではないでしょうか?車両内のドア上などに設置されたモニターには、ニュースや天気予報、鉄道情報とともに企業広告が流れるようになっています。動きや音のない車内で、映像の持つインパクトは強く、一瞬で注意を引きつける力がありその訴求力には注目が集まっています。
しかし、まさに今トレンドになっているこのモニター広告には最大にして唯一の大きな課題があるとされています。それはモニター広告に採用される「ロール掲出」という掲出方式です。ロール掲出とは、複数の広告が交互に、一定時間ごとに切り替わる形式のことです。たとえば30秒ごとに広告が入れ替わる場合、自社の広告が乗客の乗車時間中に表示されない可能性があり得るということです。つまり、広告の“存在そのもの”が不確定要素に依拠するものであり、交通広告の魅力のひとつでもある確実性に欠けるという弱点があるのです。
その一方で、ポスター広告は一度掲出されれば、常にその場に在り続けます。電車がどの駅に停まっていようと、朝でも夜でも、混雑していても空いていても、必ずそこにあるのです。すなわち、状況や環境、タイミングや設定という外的要因に依拠することがなく、それ単独でそこに存在することができるのです。これは少しばかり飛躍したものの見方になってしいますが、「目に触れる機会」が保証されているという表現も必ずしも的外れなものではないでしょう。この“いつでもそこにある”という信頼性は、ポスター広告の大きな価値と言えるのです。
無意識に届くメッセージ、だからこそポスター広告に意味がある
電車内という空間は、乗客にとって「情報が限定された密室」です。スマートフォンを見ているつもりでも、ふと視線を上げるとそこに広告がある。電車内という会話の少ない空間では、ビジュアルやメッセージに意識が向きやすく、短い時間でも印象に残りやすくなるものです。ポスター広告は、そんな無意識の中に自然と入り込む“静かな存在”でありながら、確かな記憶を残します。
また、紙の質感や大きさによる「存在感」も見逃せません。ポスター広告は物理的にそこに“ある”ため、モニター広告と違って画面サイズや表示解像度に依存することがありません。デザインの細部まで視認できることで、ブランドの世界観やメッセージが、より豊かに伝わることでしょう。
「歩きスマホ」という言葉が成立してから長い時を経て、電車内のポスター広告というと、やはりアナログの象徴であり、意識に働きかけることなくあまり目立たない存在だという感覚が大きいように思われます。しかし、その“目立たなさ”こそが、日常の中に自然と溶け込み、無意識のうちに私たちの記憶に残る力になっているのです。
デジタルサイネージを筆頭にモニター広告に代表されるような、テクノロジーの進化によって広告手法は多様化しているのもまた確かです。しかしながら、ポスター広告は今でなお確かな効果を持つ「不変のメディア」と言えるでしょう。
日々、電車に揺られながら何気なく見ているそのポスター。
それは、企業と私たちをつなぐ、意外と奥深いコミュニケーション手段なのです。
